盛岡地方裁判所 昭和24年(行)120号・昭23年(行)113号 判決
原告 加賀野土地株式会社 外三名
被告 岩手県知事
一、主 文
原告村井荘平の別紙第三目録記載の各土地に関する買収処分の取消を求める本件訴及び原告株式会社井筒屋の同第四目録記載の各土地に関する買収処分の取消を求める本件訴はいずれもこれを却下する。
被告が昭和二十三年八月一日附岩手と第二一五号買収令書をもつて同第一、二目録記載の各土地につきなした買収処分及び昭和二十四年八月一日附岩手を第四〇号買収令書をもつて同第五目録記載の各土地につきなした買収処分はいずれもこれを取り消す。
訴訟費用のうち原告加賀野土地株式会社及び同村井カメと被告の間に生じた部分は被告、原告村井荘平及び同株式会社井筒屋と被告との間に生じた部分は同原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、「被告が昭和二十三年八月一日附岩手と第二一五号買収令書をもつて別紙第一ないし第四目録記載の各土地につきなした買収処分及び昭和二十四年八月一日附岩手を第四〇号買収令書をもつて同第五目録記載の各土地につきなした買収処分はいずれもこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、別紙第一及び第五目録記載の各土地は原告加賀野土地株式会社(以下原告会社と略称する)の所有であり、同第二目録記載の各土地は昭和十九年八月十五日原告村井カメが原告会社から買い受け昭和二十三年七月四日これが所有権移転登記を経由したもの、同第三目録記載の各土地は昭和二十一年十二月二十七日原告村井荘平が同じく原告会社から買い受け同年十二月二十八日これが所有権移転登記を経由したもの、同第四目録記載の各土地は同年十二月二十一日原告株式会社井筒屋(以下原告井筒屋と略称する)が同じく原告会社から買い受け、昭和二十五年十二月二十六日これが所有権移転登記を経由したものでそれぞれ原告等の所有である。しかるに旧盛岡地区農地委員会は昭和二十三年七月二日同第一ないし第四目録記載の各土地につき、昭和二十四年七月二日同第五目録記載の各土地につきいずれも旧自作農創設特別措置法(以下単に旧自創法と略称する)第三条第一項第二号に該当するものとして原告会社を相手方としてそれぞれ買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供し、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て前者につき昭和二十三年八月一日附後者につき昭和二十四年八月一日附の各買収令書を発行し、右各令書はそれぞれ昭和二十三年九月二十七日及び昭和二十四年十月十九日原告会社に交付された。
しかしながら前記各買収処分は、原告村井カメ、同村井荘平、同井筒屋のそれぞれ所有にかかる各土地をも原告会社の所有なりとしてこれを相手方としてなした点において買収対象物件の真実の所有者を誤つた違法があるのみならず、別紙各目録記載の各土地は、昭和三年盛岡市加賀野耕地整理組合が宅地造成の目的をもつて耕地整理を施行した区域に属し、しかも現況農地であるにかかわらず岩手県知事から宅地として分譲することの許可を受け、何時でも宅地に地目変換をなし得る態勢にある土地であつて、殊に近時この方面における市街地の著しい発展の現況に鑑み、右各土地はいずれも近くその使用目的を変更して宅地となすのを相当とするものであるから、旧盛岡地区農地委員会においても旧自創法第五条第五号の規定に則り須く買収除外の指定をなすべきであつたにかかわらず、これをなさず、漫然買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれを踏襲した被告知事の前記各買収処分も違法たるを免れない。しかのみならず右買収にかかる土地のうち別紙第三目録記載の盛岡市新庄天神二十七番の二田一反七畝及び同第五目録記載の同番の二田二畝二十九歩は同番の二田一反九畝四歩の一部であり、また同目録記載の同二十七番の一田三畝三歩は同番の一田一反八畝二十四歩の一部であり、いずれも一筆の土地のうちの一部買収であるにかかわらずその如何なる部分範囲を買収したのか全く不明であり、買収範囲不特定の違法をも免れない。
しからば以上いずれの点よりするも前記各買収処分は違法であり、且つ右の違法は取り消し得べき瑕疵に該当するから原告等はそれぞれその所有農地に関する前記各買収処分の取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告等の各請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告等主張日時旧盛岡地区農地委員会が別紙第一ないし第五目録記載の各土地につき旧自創法第三条第一項第二号に該当するものとして原告会社を相手方として買収計画を樹立してその旨公告し書類縦覧の手続をなし、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て原告等主張の各買収令書を発行して右各土地を買収したこと、原告等主張の各日時別紙第二目録記載の各土地につき原告会社より原告村井カメに、同第三目録記載の各土地につき原告会社より原告村井荘平に、同第四目録記載の各土地につき原告会社より原告井筒屋にいずれも売買を原因とする所有権移転登記のなされたこと、原告等主張の別紙第三目録記載の盛岡市新庄天神二十七番の二田一反七畝及び同第五目録記載の同二十七番の二田二畝二十九歩は同番の二田一反九畝四歩の一部であり、また同第五目録記載の同二十七番の一田三畝三歩は同番の一田一反八畝二十四歩の一部であることは認めるが原告等その余の主張事実は争う。右一部買収にかかる各土地の部分範囲は現地において明らかであり、何等買収範囲不特定の違法はない。なお別紙第二、三、四目録記載の各土地の所有権が原告会社からそれぞれ原告村井カメ、同村井荘平、同井筒屋に移転したのは前記各所有権移転登記手続のなされた日時であり、右第二、四目録記載の各土地の所有権が原告村井カメ同井筒屋に移転したのは前記買収計画樹立後のことに属するから、右第二、四目録記載の各土地について右買収計画樹立当時における所有者であつた原告会社を相手方としてなした買収処分は固より適法であり、何等買収対象物件の真実の所有者を誤つた違法はない。次に旧自創法第五条第五号にいわゆる近く土地使用の目的を変更するのを相当とする農地とは、単に当該農地の所有者が主観的にこれを農地以外の土地として使用した方がより収益価値が大であると考えているとか、或は将来除々に宅地等として使用されるであろうという蓋然性があるのみでは足りないのであつて、当該農地を宅地等に使用目的を変更しなければならない差し迫つた現実の必要があり、且つその使用目的変更が相当であると観得られる程度に明白な客観的事実の存することを要するのであり、しかも右買収除外の指定をなすべきか否かは、農地の潰廃許可の場合におけると同様、農業政策上の見地に立ち国民経済的考慮の下になさるべき行政庁の自由裁量に属するからこれをなさざるも違法とはなし得ない。しかるに別紙各目録記載の各土地は区画整理施行区域の一部に属するとはいえ、水道及び瓦斯等の施設が備つているわけでもなく、また前記買収計画樹立当時は勿論今日に至るも宅地化の一般的傾向がそれ程著しい現実の問題として存在していないに対し、一方右各土地は永年多数の専業農家の耕作するところで、その農地の生産性極めて良好である等諸般の状況に鑑み、右各土地は到底近き将来において土地使用の目的を変更して宅地となすのが相当である農地とは認められない。しかも前記買収計画樹立当時は食糧事情極度に逼迫し、食糧の増産こそ凡てに優先して遂行されなければならない緊急の課題であつたのみならず、一方では急速且つ広範に自作農を創設することが至上の命題であつてみれば、旧盛岡地区農地委員会にとつて前記各土地の転用潰廃は思いも及ばなかつたところであり、従つてこれが買収除外の指定をしなかつたのは固より当然というべく、これに基き被告知事のなした前記各買収処分もまた適法であつて何等原告主張のような違法はないと述べた。(立証省略)
三、理 由
よつて先ず本件訴の適否につき案ずるに、農地買収処分の適否を争いこれが取消を求める訴訟において原告となり得る者は当該買収処分の相手方であることは勿論であるが、買収処分の相手方とされていない者であつても買収対象物件の所有者なりと主張し、右買収処分によつてその所有権を侵害されたとする者も等しく訴提起の利益を有することは多く論ずるまでもないところである。
本件において、旧盛岡地区農地委員会が昭和二十三年七月二日別紙第一ないし第四目録記載の各土地につき、昭和二十四年七月二日同第五目録記載の各土地につきいずれも旧自創法第三条第一項第二号に該当する原告会社の所有小作農地として同原告を相手方として買収計画を樹立し、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て前者につき昭和二十三年八月一日、後者につき昭和二十四年八月一日附原告会社宛の各買収令書を発行して右各土地を買収したことは当事者間に争いがない。このように右各買収処分に関し第三者である原告村井カメ、同村井荘平、及び同井筒屋が本件訴を提起し得るがためには、右各買収処分によつてそれぞれその所有権を侵害されていなければならないわけである。
そこで右原告等がそれぞれその主張の本件各土地の所有者であるか否かにつき判断するに、登記官吏の作成部分につき当事者間に争いがないのでその全部が真正に成立したものと認められる甲第二十四、第二十五、第二十八号証及び原告会社並びに同井筒屋の代表者本人村井弥兵衛の本人尋問の結果によれば、昭和十九年八月十五日原告村井カメが原告会社から別紙第二目録記載の各土地を、昭和二十一年十二月二十七日原告村井荘平が同じく原告会社から同第三目録記載の各土地を、同月二十一日原告井筒屋が同じく原告会社から同第四目録記載の各土地をそれぞれ買い受ける旨の契約を締結しその引渡を了したのであつたが、その際いずれも岩手県知事の許可を受けなかつたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠がない。
ところで原告会社及び原告村井カメ間に前示売買契約の締結せられた昭和十九年八月十五日当時施行の昭和十六年二月一日勅令第百十四号臨時農地等管理令の昭和十九年三月二十五日勅令第百五十一号による改正規定第七条の二によれば、農地の所有権等の譲渡契約の締結に当つては地方長官の許可を受けなければならないとせられ、第十二条において、何等の名義をもつてするを問わず第七条の二の制限を免れる行為をなすことを得ないと規定されていたけれども、右許可を受けないでなした譲渡契約等の私法上の効力については何等の規定を設けなかつたところを見れば、右規定に違反した行為については国家総動員法第十三条、第三十三条の罰則の適用を受けるべきは格別、契約に基く私法上の効力を生ずるにつき何等妨げがなかつたものと解するべきである。しからば原告村井カメは昭和十九年八月十五日前示売買契約により有効に別紙第三目録記載の各土地の所有権を取得したものといわなければならず、従つて本件買収処分の相手方とせられてはいないが、右各土地の真の所有者としてこれに関する本件買収処分の取消を求め得べきこと明らかである。
次に原告会社と原告村井荘平及び同井筒屋間に前示各売買契約の締結せられた昭和二十一年十二月当時施行の昭和二十一年十月二十一日法律第四十二号(同年勅令第五百五十五号により同年十一月二十二日から施行)による改正農地調整法第四条は、農地の所有権等の移転については知事の許可を受くべきものとし、許可を受けないでなした行為はその私法上の効力を生じないものと規定したのであるが、その第五条において右第四条の適用除外の場合を列挙した外その第四号において更に命令をもつて適用除外の場合を定め得るものとしたのである。しかして右第五条第四号の規定に基く命令である昭和二十一年十一月二十日勅令第五百五十六号による改正農地調整法施行令(同月二十二日施行)第三条は、その改正前の同年一月二十四日勅令第三十八号同施行令第十一条の規定をそのまま受けたものであるが、右第十一条第三号によると、「耕地整理その他土地の農業上の利用を増進するため農地を耕作以外の目的に供するとき」もまた農地の所有権移転等の場合につき知事の許可を要しないものと規定していたのである。ところで後段認定のとおり、別紙各目録記載の本件各土地は、前記村井弥兵衛外数名が発起人となり昭和四年八月三十一日岩手県知事の設立認可を受けて発足した加賀野耕地整理組合の耕地整理施行区域に属してはいるが、その真の目的とするところは、農地の農業上の利用増進にあるのではなく、専ら市街地区画整理により宅地を造成するにあつたのであるから前記施行令第十一条第三号に該当する場合ではないものといわなければならない。しからば原告村井荘平及び同井筒屋が原告会社からそれぞれ別紙第三、四目録記載の各土地を買い受けるに当つては、当時施行の前記旧農地調整法第四条により岩手県知事の許可を受けなければならなかつたにかかわらずこれを受けなかつたのであるから前示各土地の所有権移転の効力を発生するに由ないものといわなければならない。このことは右各土地が形式上耕地整理施行の土地であることの故に知事の許可なくしてその所有権移転登記手続がなされ得たことによつて左右されるものではない。
しからば原告村井荘平及び同井筒屋は、本件買収処分の相手方とされていないのみならず、前示各土地の所有者でもないのであるから被告知事に対し右買収処分の取消を求める本件訴を提起する適格を有しないものといわなければならず、従つて右原告等の本件訴はいずれも不適法として却下さるべきである。
よつて次に別紙第一、二及び第五目録記載の各土地が旧自創法第五条第五号にいわゆる近く土地使用の目的を変更するのを相当とする農地であるか否かにつき案ずるに、成立に争いのない甲第一ないし第九号証、第十三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる第十、十一、十二、十四、二十二、二十三号証、証人片山幸助、高八卦勇の各証言及び前記村井弥兵衛の本人尋問の結果を綜合すれば、右村井弥兵衛及び訴外成瀬徳太郎外五名が発起人となり別紙各目録記載の各土地を含む盛岡市大字加賀野、大字新庄及び岩手郡浅岸村大字新庄(その後盛岡市に編入)地区約三十町歩の農地につき、耕地整理施行のため昭和四年二月十六日岩手県知事に対し耕地整理組合の設立認可を申請したところ、同年八月三十一日同知事の認可があつたので加賀野耕地整理組合として発足したこと、右組合の名称はこれを耕地整理組合とはしたけれども、その事業内容は、前示地区内の土地の交換、分合、地目変換、区画形質の変更、道路畦畔溝渠の廃止変更及び排水に関する施設工事の実施にあり、その真の目的とするところは農地の農業上の利用の増進を図ることにあるのではなく、専ら市街地区画整理により当時同市において不足していた住宅地を造成してこれを分譲するにあつたのであるが、土地台帳法による土地の交換、分合、地目変換、区画形質の変更をするには相当の経費を要する見込であつたのでこれを軽減するため耕地整理法に準拠したものであること、かくて工事費用は等級に応じて受益者負担とすることとして昭和五年春工事に着工し、幅員狭隘にして不規則不統一のため利用上多大の不便のあつた従来の道路を変更廃止して、新たに縦横に通ずる幅員四間又は二間半の道路を設け、その両側には幹線において幅員四尺、支線において一尺五寸、深さ各一尺の鉄筋コンクリート製の側溝を附置して将来街路となつた場合の排水の便を図つたこと、その頃右工事施行にかかる全地域は同市の水道給水区域に編入され、前示新設道路の主要部分に配水鉄管が敷設されたこと、なお同市は昭和十三年都市計画法の適用を受け、前示耕地整理施行地区を含む加賀野地区一帯に街路網及び建築線が設定され、更に昭和二十五年六月二十三日建設省告示により同市の住宅地区に指定されたこと、以上の事実を認めることができる。
しかして成立に争いのない甲第十五ないし第十九号証及び前記村井弥兵衛の本人尋問の結果によれば、昭和十六年二月十八日右村井弥兵衛が別紙各目録記載の各土地を含む前示加賀野地区耕地整理施行地域内に所有する農地につき、昭和十五年十一月二十一日勅令第七百八十一号宅地建物等価格統制令第五条第一項に基き岩手県知事に対し土地分譲価格に関する認可を申請したところ、同年三月十四日その旨認可があつたので、現況農地であるにかかわらずこれを宅地としての価格をもつて分譲することが認められていたものであることを認めることができる。
次に成立に争いのない甲第二十、二十一号証によれば右村井弥兵衛等は岩手県知事に対し前示耕地整理施行地域に属する農地につき、近き将来において使用目的を変更するのを相当であるとして旧自創法第五条第五号に則り買収除外の指定をなされたき旨申請したので同知事は岩手県都市計画地区指定委員会に諮問したところ、同委員会は都市計画上右地区の一部につき買収除外の指定をなすのが相当であるとして昭和二十三年九月二十二日その旨同知事に答申したこと、よつて同知事は同年十二月十日附をもつて右加賀野耕地整理組合のなした耕地整理施行地区の一部(但し別紙各目録記載の各土地はいずれもこれに含まれていない)にして既に買収済の農地のうち昭和二十二年十一月二十六日現在において売渡処分完了前のものにつき旧自創法施行規則第七条の二の三に則り売渡保留の決定をしたこと、以上の事実を認めることができる。
なお検証(第一、二、三回)の結果によれば、別紙各目録記載の各土地は盛岡市の市街地の中心部の東方、徒歩で約二十分の近距離に位置し、その西南方は同市の繁華街に連らなり大型バスも定期に運行していて交通の便極めて良好であること、右各土地は完備した側溝を伴う幅員四間又は二間半の縦横に通ずる整然と区画された前示加賀野耕地整理施行地区の東南方に属し、右耕地整理施行にかかる地域中相当部分は既に宅地に造成せられ、附近には県立盛岡第二高等学校、岩手大学附属小中学校、市立加賀野中学校、県立清和病院等の公共施設が建在する外、右整備された道路に沿うて多数の住宅が規則的に立ち並び、残存耕地の部分も日を追うて宅地化されつつあり、現に諸所に新築家屋が建築中であつて、別紙各目録記載の各土地を含めた附近一帯の現況は正しく住宅街の様相を呈しつつあること、以上の事実を認めることができる。
以上の認定に反する証人岩根芳郎、佐々木作右ヱ門、工藤仁蔵、相良政行の各証言は前記各証拠に照らしにわかに採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠がない。
してみれば本件各土地は、これに対してなした前示耕地整理の目的及びその施行の実態、岩手県知事から宅地として譲渡処分することを認められて来た事実、右各土地と同様前示加賀野耕地整理組合のなした耕地整理施行地区に属し且つその状況において全く同一である附近の農地の一部が現に同知事により都市計画上必要ありとして売渡保留の決定がなされている事実、並びに本件各土地の立地条件、交通関係その他周辺の土地利用の状況等諸般の事実に鑑みるとき、前示買収計画樹立当時において既に旧自創法第五条第五号にいう近く土地使用の目的を変更するのが相当である農地といわなければならない。しかして右法条にいう市町村農地委員会又は都道府県農地委員会の買収除外の指定はいわゆる法規裁量に属するから、旧盛岡地区農地委員会において本件各土地につき買収除外の指定をなすべきであつたにかかわらず、その裁量を誤り右指定をしないで前示各買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基く被告知事の本件各買収処分もまた違法であり、且つ右違法は取り消し得べき瑕疵に該当するものといわなければならない。
この点に関し被告は、旧自創法第五条第五号に基く買収除外の指定をなすべきか否かは、行政庁が広く農業政策上の見地に立つて決すべき自由裁量に属し、これをなさざるも敢えて違法でない旨主張するけれども、右買収除外の指定は前示のとおり法規裁量に属し、苟も右指定をなすべき相当の理由があれば必ずこれをなさなければならない義務があること勿論であり、右主張は採用に値しない。被告はまた前記法条にいう近く土地使用の目的を変更するのを相当とする場合とは、使用目的変更の必要性が明白且つ現実に差し迫つていなければならないと主張するけれども、右相当性の認定に当つては、固より農地所有者の単なる主観ないしは漠然たる将来の了想の程度にとどまつてはならないことはいうまでもないが、さればといつて現実且つ具体的な必要性までも要求するものではなく、要は当該農地を繞る客観的諸条件からしてそれが比較的近い将来において宅地等に転用される高度の蓋然性があれば足りるものと解すべきである。蓋し土地の有する経済的利用価値はこれを繞る客観的条件によつて規制されるのであつて、従来農地の型態のままでの利用価値にとどまつていたものが、その置かれた立地条件、附近の土地利用の状況の推移等客観状勢の変化によつて、農地としての利用価値よりも宅地等としてのそれがより増大するに至つたときは、農地それ自体の持つ経済的利益への傾斜の故におそかれ早かれ農地の型態のままにとどまることができなくなつて宅地等に転用されることは自然の勢である。従つてこのような状況にある農地を買収して売り渡してみても結局自作農創設の目的に副わない結果になることが明らかなわけで、その他の点において買収し得べき農地であつても、特にこれを買収しないこととしたのが旧自創法第五条第五号の立法趣旨と解すべきである。この点に関する被告の主張もまた採用できない。
よつて原告村井荘平の別紙第三目録記載の各土地に関する買収処分の取消を求める本件訴及び原告株式会社井筒屋の同第四目録記載の各土地に関する買収処分の取消を求める本件訴はいずれも不適法として却下すべく、原告加賀野土地株式会社の同第一、五目録記載の各土地に関する買収処分及び原告村井カメの同第二目録記載の各土地に関する買収処分のそれぞれ取消を求める本訴各請求は、同第五目録記載の各土地につき買収範囲が特定しているか否かを判断するまでもなく正当としてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)
(目録省略)